ファッツ・ワーラー ‘Fats’ Waller が、ハーレムの地下のクラブで行われたデューク・エリントンを祝う大きなパーティに出席したときのことだ。パーティにはジャズの名士たちがたくさん招待されていた。ファッツとウィリー・ザ・ライオン・スミスは交互にピアノに向っていた。ところがパーティがあまりにも騒がしくなったためか、突然警察の手入れが始まった。警官の笛が聞こえた瞬間、ザ・ライオンは裏口から飛びだすとすぐそばの木によじ登り、一番低い枝のなかに隠れた。あとを追ってくる音に聞き耳をたてていると、上の枝からファッツの声が聞こえてきたような気がした。
「どうなってるんだい? お巡りが追ってきてるかね?」
ザ・ライオンはびっくりして上を見上げ、自分の目を疑った。間違いなくそれはファッツだった。その素速さにザ・ライオンはただただもう感服するしかなかった。なにせファッツの体重は140キロもあったのだから。