アンドレ・プレヴィンが語る。
──ある日、僕らの演奏している店にベニー・グッドマンがやってきて、僕のトリオとレコードをつくりたいと言うんだ。そしてリハーサルのために彼のコネティカットの家に明日来てくれとね。
「あしたは忙しい日になるから、九時にきてほしいんだ」と彼は言う。
「でもベニー、僕らはここで朝の四時まで働いてるんだよ」と僕は言った。
「いや大丈夫だ、演奏が終ったらまっすぐ帰って寝ておくれ」
リハーサルはうまくいがなかった。というのもその日はひどく寒くて、僕らの指がかじかんでしまっていたからだ。この日は、数年前までベニーのところの専属歌手だったヘレン・ウォードガ来ていて、彼女がとうとうそのことを言ってくれたんだ。
「ベニー、あなた全然わかってないのね。これじゃあ寒すぎてとても無理よ」
「あ、そうか。その通りだね」
とベニーは答えた。そして急いでウールの暖かそうなセーターを出してきてそれを着込むと、彼はまたリハーサルに戻ったのさ。