ヴィヴラフォン奏者のテリー・ギフズ Terry Gibbs がまだ若がったころ、トミー・ドースィのオーケストラに加入したとき、彼はとても嬉しがった。飛行機を信じていない母のために、彼は汽車でカリフォルニアまで行き、同バンドに合流した。だがいざ演奏に参加してみると、ダンス音楽ばかりで、アドリブ・ソロなどとれる余地はほとんどなかった。バンド入りは間違いであったと気づいた彼は、すぐにマネジャーにやめたいと伝えたが、ドースィはもちろん喜ばなかった。
──トミーは気性が荒いって聞いていた。二、三人で話しをしていたとき彼が僕のほうに近づいてきたんだ。
「おい、クソッタレ Shithead」
彼はだれでもクソッタレと呼んだんだ。僕は振り向いて防御姿勢をとったよ、だって彼は話しを始める前に、まずぶん殴るのが癖だったからね。彼は大男で僕より九フィートも大きいように見えたね。
「なんだって、俺のバンドをやめるって?」
僕はわけを説明した。
「だれも俺のバンドはやめられんぞ。お前はクビだ」
「じゃあ、僕をクビにするのなら帰りの旅費は出してくださいよ」
「うん、いや、お前はやめるんだ。旅費は自分で払え」