【解説】ミュージカルは閉めて映画は開演
これはガス・カーン作詞、ウォルター・ドナルドソン作曲で1930年につくられた曲だ。同年の映画『Whoopee』(United Artists)に使われ、エディ・キャンターによって歌われた。いまは有名になった[Makin’ Whoopee]も入っていて、どちらもキャンターらしさが横溢した歌であり曲である。
この映画の原作版ミュージカル【Whoopee】は1928年12月4日に映画とほぼ同じメンバーではじまり、そちらの方にはルース・エティングが出演し、彼女の歌う[Love Me or Leave Me]が入っていてこの曲は入っていなかった。このミュージカルはフロウレンズ・ズィーグフェルドがプロデュースしてかなり成功したが、’29年11月にウォール街のクラッシュがあり、心配になったズィーグフェルドがその映画化権をサミュエル・ゴールドウィンに売ったのだ。実際は、ズィーグフェルドとゴールドウィンが共同プロデュースの新会社を作ったのだという。その契約はミュージカルを閉める条件だったので、ミュージカルの方は379回で閉めることになった。そしてこれはゴールドウィンの最初のミュージカル映画になり、キャンターにとっても振付のバズビィ・バークレイにとっても最初の大きな仕事になった。キャンターは前二作を失敗していたので、これが最初の成功作となった。エティングは映画の方には参加せず、そのために[Love Me or Leave Me]は落とされたようだ。そして映画にはほかの人の曲も多く挿入されたが、[Makin’ Whoopee]以外ではこの曲だけがスタンダード曲として残った。
ところでズィーグフェルドとゴールドウィンという二人の名だたる頑固者の新会社は、映画のクレディットにズィーグフェルドが自分の名前を先に入れろと早速言いはり、間もなく壊れることになった。とはいえ、ゴールドウィンはバークレイに全面的自由を与え、バークレイはのちに彼の特許のようになった万華鏡的振付をやってのけ、コーラス・ガールの撮影では四台のキャメラを使うことが常識になっていたのにわざわざ一台で撮り、その前に立つ男性の視点から撮って当時としては新しい視点をつくりあげた。ロシアの片田舎からアメリカに流れてきたユダヤ人のゴールドウィンは、生涯英語がまともに話せなかったほどあか抜けなかったが、新しいものや上質なもの洗練されたものに鋭敏な感覚をもっていて、映画プロデューサーとして大成していった。ちょうど同じロシアの片田舎からきたユダヤ人でピアノが弾けずに大作曲家になったアーヴィング・バーリンと、なにか似ているものがあるような気がする。
【補遺】なにか変化の余地を残しているようにも
この曲はヴァース16小節、コーラスA–B–A′–C32小節という構成になっている。テンポは Moderato と指示があり、ミディアムといったところ。冒頭はあまり変化がなく、原譜では、なにか凡庸さを感じさせる。ただCでは二小節もF♯7がつづき、これは現在ではC、C♯m7/F♯7というふうに置き換えられるかもしれない。簡単素朴な曲だからこそ、まだまだなにか変化の余地を残しているようにも見える。アレック・ワイルダーはウォルター・ドナルドソンについて論評を加えている頁で、[Love Me or Leave Me]を採りあげているが、[Makin’ Whoopee]とこの曲は通りすぎている。どうも彼のお気に召さなかったようだ。なるほど、これはそんな凡庸な感じの曲だ。だがその割には好きな人が多い。
フランク・シナトラはミディアム2ビートでスウィンギィに出てきて、メロディを徹底的にくずしている。1コーラス歌って半音あがり、4ビートにしてもう1コーラス歌い、エンディングは簡潔だ。ニナ・スィモンは前者よりわずかに遅く、ブギウギ調で歌う。1コーラス静かに歌って、ややクラシカルな弾き方でソロをとり、もう1コーラス歌って最後は力づよくソウルフルに締めている。フランスィス・フェイは前二者よりずっと速く、2ビートでスウィンギィに歌う。1コーラスのあとピアノがとり、第二節からまた歌い、これもかなり力づよい。ロレズ・アレグザンドリアは前者ぐらいの速めの2ビートで歌う。1コーラスをスウィンギィに処理して、ピアノがとり、もう1コーラス歌ってエンディングは軽快だ。ジョウ・ウィリアムズも速めの2ビート・スウィングで、この曲はみなテンポが似ている。1コーラスを勢いよく歌って、アンサンブルとテナーサックスが交互にとって、彼が後半を歌って締める。非常に安定していた時期で、彼の歌はしまっている。ボブ・クロズビィは兄のビングに声が似ているけれど、兄よりいくらかジャズっぽい。これもテンポが速く、軽く明るく2コーラス歌っていて、拍手が多い。ロウズ・マーフィはミディアム遅めの4ビートで歌っている。1コーラス半をゆったりと力みなく歌って、あんがいスウィングして面白い。ハイロウズはこの曲を得意にしていたが、それはミディアム4ビートでスウィンギィに出てくる。D♭で1コーラスを歌って、半音あげて間奏が入り、後半を大きく変化させながら歌って見事に高音で締めている。