【解説】宗教色はうすくブルースやフォークソング寄りの
これはアメリカ黒人のあいだに伝わっていた古いスピリチュアル(霊歌)で、トラディショナル曲である。1865年にスピリチュアル曲集が初めて出版され楽譜化されたので、書物によってはその年代が書かれている。ただしこの曲はスピリチュアルでも宗教色はうすく、ややブルースやフォークソング寄りの曲である。曲名の[Lonesome Road]は古いものでは Look down, Look down, That Lonesome Road、あるいは単に Look down, That Lonesome Road ともつづられる。
それからポップ歌手のジーン・オースティンが歌詞を書き、ナット(ナサニエル)・シルクレットがブリッジ部分のメロディを書きたしたものが’27年につくられ、’28年にポップ・ソングとしてクレディットされている。シルクレット(1895-1982)は元はニューヨーク・フィルのクラリネット奏者で、スーザのバンドでも演奏し、のちにヴィクターの音楽監督になった人だ。こっちの方は1929年の半分サイレント半分トーキーであまり成功したとは言えない映画『Show Boat』(Universal)に使われ、ずっとのちに『Cha-Cha-Cha-Boom』(Columbia, 1956)にも使われた。
【補遺】ブルースと考えてしまってもいい
この曲は単純なかたちで、A–B–A–B各4小節で計16小節という構成で、それを二回で1コーラスになっている。ブルース・テンポで、ブルースと考えてしまっもいいだろう。コーラス2はポップ版の方で、AB–AB–C–AB32小節という構成になっている。さらにコーラス3はそのAB–AB部分の二番の歌詞である。
サミー・デイヴィス・ジュニアはコーラス2のポップ版の歌詞を、ミディアムのテンポで、かなり声を張り上げぴったり二回歌う。ほかのスタンダードを歌うときより野性的な雰囲気を感じさせ、エンディングも大きな声で締めている。リー・ワイリィはもう少し遅く、前者よりはるかにおとなしい雰囲気で歌う。歌詞は2のポップ版で、1コーラス、ピアノの間奏、ブリッジからまた歌って、最後はなにも飾らずにピアノ任せで終えている。ジュリィ・ロンドンは、ベースの4ビートから出て、サミー・デイヴィスと同じくらいの速さのかなりジャズっぽい処理だ。2のポップ版を1コーラス歌い、ヴァイブがとってブリッジから出て、最後はまたベースだけが残ってくり返して終える。来日テレビ出演盤では同じ2のポップ版だが、ルバートで出て、第二節からすごいアップ・テンポにして1コーラス歌い、すぐブリッジに行ってテンポを半分に落とし、エンディングではロック調のリズムにしたりと変化をつけている。ケイ・スターはスローでブルースのような感じで出てくる。この人のR&B調の声はこの曲の雰囲気にぴったりだ。男性コーラスが三連符を入れたりして1コーラス歌うと、今度は倍の速さの4ビートになってスウィングさせる。歌詞は2のポップ版で、丸まる2コーラス歌っている。ルイ・アームストロングは、ミディアム・スローくらいでバンドとバック・コーラスが演奏し歌っている前で、漫才のように喋りつづける。それからトランペットでメロディを吹くが、その気分はやはり彼ならではのものだ。彼はメンバーをすべて brother と言って一人一人紹介したり、聖書の話しをしたりして、喋りつづけるが歌っていない。これもかたちは2のポップ版だ。ミルドレッド・ベイリィもテンポが遅く、サッチモと同じくらいで、おっとりとした2ビートで歌う。2のポップ版で1コーラス歌い、そのあと間奏をはさんでコーラス3を歌い、全体に静かな歌にしている。