Episode #022 やっとベニーは口を開いた

 ベニー・グッドマン楽団の全盛時代、トランペット・セクションでハリー・ジェイムズとズィギィ・エルマン Ziggy Elman が、超美技をきそいあっているときだ。クリス・グリフィン Chris Griffin は、おかげでソロをとる場所がまったく無くなってしまい、ふてくされてマネジャーのレナード・ヴァナーソン Leonard Vannerson にバンドをやめたいと告げた。ベニーは凄くクリスのことを気に入っていたので、レナードはこのことを直ぐには言えず、仕事を終えて食事に行くときになってやっと彼に話した。ベニーはなにも答えず、レストランに入り、スクランブルド・エッグを注文した。

 彼はその卵料理にケチャップをかけたが、そのときどういうわけかケチャップの壜の蓋がポロッと皿の真ん中に落ちてしまった。しかし彼は蓋を拾わずにその周囲の卵を少しずつ食べていき、最後は蓋の下の部分だけを残して全部きれいに食べてしまった。そのあいだ一言も諜らずに。

 それから二人は車に戻り、レナードの運転で出発した。朝の五時だった。と突然ミルクを積んだ農夫の荷車が飛びだしてきて、彼らの車はそれにもろにぶつかってしまった。ブレーキの音が響き、ミルクがこぼれ、荷車を引いていた馬があばれ、農夫は大声でわめいた。そこでやっとベニーは口を開いたのだ。

「クリスがそんなことを言うなんて、一体なぜなんだ?」