Episode #015 トミー・ドースィが止めに入ってくれたが…

 トミー・ドースィは時間厳守の規則をつくっていて、もし遅刻した場合はだれにでも罰金を課した。であるときジョウ・ブシュキンもそれを払う羽目に陥った。

──罰金というのはバンドのメンバー全員に酒をおごることで、かなり高くついたね。バディ・リッチはほとんど毎晩一回目のセットに遅れてきてたけど、その時間はトミーはまだ来てないし、だれもそのことを密告したりしなかったんだ。

 僕はいつも時間どおりに来ていたよ。遅刻したことは二回ばかりあるけど、そのうちの一回は、バディ・リッチと大喧嘩することになったんだ。

 僕が遅れて現れると、トミーはバンドをとめて「たしか、きみはウチのメンバーだったな」なんて言うのさ。確かに僕は遅刻した、しかも間違ったユニフォームを着ていてね。その日は火曜日で明るいユニフォームに変えることになっていたんだけど、月曜が休みだったので、僕は前の晩は家に帰らず外泊していたんだ。それでみんなと違うユニフォームを着てきたというわけさ。僕は喜んでみんなに酒をおごったよ。

 とにかくトミーがウェイターを呼んで、豪勢に注文したね。ジョージ・エイラス George Arus とチャック・ピーターソン Chuck Peterson なんか、カナディアン・クラブをボトルで呑んだよ。それにだれかもう一人ボトルで呑んでたっけ、まあそういった具合だ。コカ・コーラが一ケースに、最後はバディ・リッチがワインを一本さ。「そのワインはなしだよ」と僕は言った。理由をトミーが知りたがったので、僕は「彼にはだめだよ。彼は、あなたがまだ来ていない時間に毎晩遅れて来るんだ。だから彼にワインをおごるのは御免だね。そうしたければ先ず彼が罰金を払ってからさ」と言ったんだ。

 ウェイターがボトルをいっぱいもってやってきたけど、ワインは送り返してやったよ。そのあとバディと僕は、公園に行って殴りあいさ。バンド全体が闘争心旺盛だったからね。ドースィが出てきて止めに入ってくれたけど、彼は僕らのことを気づかってるんじゃなかったんだ。

「上着をぬげ!」と彼はどなったね。

「上着だ! まだもう一回演奏が残ってるんだぞ!」